「経験や勘に頼るこれまでのやり方では、古くから伝わってきた玉露づくりの技術が途絶えてしまう」。将来の茶栽培に危機感を募らせていた八女茶生産者と、茶葉の栽培・加工などの試験研究を行う福岡県農林業総合試験場八女分場は2018年10月、カメラや温度センサーなどのIT 機器を活用した茶葉の栽培技術の確立を目的に「八女伝統本玉露IoT システム開発・実証事業」をスタートした。
背景
八女伝統本玉露は、茶園に設置した稲わらで太陽の光を調整する「覆下栽培」を行うなど、味と品質を最高に保つため、今でも手間を惜しまずに伝統的な生産方法を守り続け製造されている玉露。
全国茶品評会では、5年連続で農林水産大臣賞と18年連続で産地賞を獲得するなど、高品質な玉露生産に力を注いできた。
しかし、今までのような経験則を主体とした技術の伝承では、技術を習得するまでにとても時間がかかります。生産者の高齢化や、深刻な後継者不足の問題を抱える地元の実情を考えると、このままでは優れた伝統技術も、十分に伝えることができなくなると不安を感じていた。
それだけに、データを基にしたマニュアル化された栽培技術の確立が急務となっており、経験の浅い若手の生産者にも分かりやすく、短期間で効率的に技術を伝える方法として、IoTを活用した実証実験をはじめた。
仕組み
茶園に設置したIoT センサーからインターネット経由で気温・相対湿度や照度、新芽の生育長と葉色・地温・土壌水分のデータを連続的に取得。収集した気象環境・ 生体等の情報データの現在値や集計結果は可視化され、パソコンやスマートフォンに表示。
栽培管理に役立つ情報をモバイル端末等に提示できる栽培支援システムの開発、および 6つの農家の栽培データを開示することにより、栽培方法などの情報交換が可能となった。
効果
玉露栽培で大切な日光を遮る被覆作業では、従来伝えられていた被覆時間より、名人と言われる人たちの被覆時間が長かったことが分かった。これまでなんとなくの感覚で感じていたことがはっきりとデータで示されることの意味はとても大きい。データの持つ説得力の強さを実感している。
また隣合う茶園であっても夜の気温や、土壌の温度に差が生じている場合があり、こうした環境の違いが茶葉の品質に少なからず影響を与えているのではとの新たな気付きも得た。
今後は、地元のJAとの連携も図りながら栽培方法の確立を進め、実証実験で測定したデータを基に栽培マニュアルづくりに取り掛かる。茶生産者がスマホで茶葉の成育状況をオンデマンドで確認できるようなシステムに育てていくことも検討中だ。
IoTの実証事業の成果を、八女茶全体の品質の底上げにも役立てていき、茶生産が若い人にとっても魅力的な仕事として認知してもらえるのではと期待している。
使用機器
導入企業 | 株式会社システムフォレスト/福岡県農林業総合試験場八女分場 |
可視化ツール | SystemForest IoT Platform |
使用ゲートウェイ | OpenBlocks IoT BX1 |
用途 | センサー 接続方式 | メーカー | 商品名 |
温度・湿度管理 | wifi | DeltaOhm | 温湿度センサ |
土壌管理 | wifi | DeltaOhm | 土壌センサ |
成育状況管理 | USB | Brinno | 定点カメラ |